らかにその子孫である。彼らはただ現時の最高のアカデミックの課程を修得したルクレチウスにほかならないのである。
エネルギー不滅論の祖とせらるるロベルト・マイアーは最もよくルクレチウスの衣鉢《えはつ》を伝えた後裔であった。しかし彼は不幸にしてその当代の物理学に精通しなかったために、その偉大なる論文は当時の物理学界からしりぞけられた。しかして当時の学界へのパッスを所有していた他のルクレチウスの子孫ヘルムホルツによって始めて明るみに出るようになった。
現代の科学がルクレチウスだけで進められようとは思われない。しかしルクレチウスなしにいかなる科学の部門でも未知の領域に一歩も踏み出すことは困難であろう。
今かりに現代科学者が科学者として持つべき要素として三つのものを抽出する。一つはルクレチウス的直観能力の要素であってこれをLと名づける。次は数理的分析の能力でこれをSと名づける。第三は器械的実験によって現象を系統化し、帰納する能力である。これをKと名づける。今もしこの三つの能力が測定の可能な量であると仮定すれば、LSKの三つのものを座標として、三次元の八分一《オクタント》空間を考え、その空間の
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