ない。将来においても、このへんの彼の所説の中のある物が、前衛に立って戦う天体物理学者のある行き詰まった考えの中に、なんらかの暗示の閃光《せんこう》を投げ込むこともありうるであろうと思われる。
 開闢論《かいびゃくろん》、天体論の次には、この世界における生物の発生進化の解説が展開されている。まず植物が現われ、次に現われた最初の動物は鳥であった。これは天涯《てんがい》から飛来したものではなくやはり地から生まれた。それはちょうど現に雨や太陽の熱によって肥土から虫が生まれるように生まれたものであると説く。これは近代物理学の大家が、生命の種子を天来の発生物に帰せようとしたつたない説をあざけるようにも聞こえる。人間も初めのうちはやはり地から生まれ、そうして地の細孔から滲出《しんしゅつ》する乳汁《にゅうじゅう》によって養われていた。しかしその後に地がだんだん老衰して来たから、もう産む事をとうにやめてしまったというのである。これは確かに奇説である。しかし彼の学説から見ればそれほど不都合ではあるまい。
 ここで地の老衰を説いた後に
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〔For lapsing ae&ons chan
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