中から偶然の結合で分離析出が起こるという考えは、日本その他多くの国々の伝説と同様であるが、それを元子論的に見た点がはなはだ近代的であることは前述のとおりである。
 地が静止しているというための彼の説明は遺憾ながら有利に翻訳し難いものである。
 次には星の運行の原因を説明するものとして、四つばかりの可能なオルターネティヴを列挙している。この説明の内容はとにかくとして、この後においても彼はしばしば当面の問題に対して可能であるべき説明をできうる限り列挙せんと努めているのは注意すべき彼の科学的方法である。彼は言う。これらのもののいずれが、この「われわれの世界」で原因となっているかは確実にはわからない。しかし宇宙間に存する「種々の世界」は種々に作られているから、これらの原因のいずれもが、どこかの世界には行なわれているかもしれない。ただこの世界でその中のどれが行なわれているかを断言する事は、自分のように「要心深く歩を進める人間」のすべき事ではないと言っている。
 この方法論は、実は、はなはだ科学的なものである。彼の考えを敷衍《ふえん》して言えば、経験によって明確に否定されないすべての可能性は、すべ
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