知覚さるる機巧に関するものである。アリストテレスやピタゴラスらは、目から発射するある物が物体を打つために物が見えると考えたのに反して、この著者が物体から飛来する何物かが目を刺激するのであると考えた点は、ともかくも一歩だけ真に近い。しかしその物体から来るものは今日の光線でも光波でもなくて「像」(image)と名づける薄膜状の物質である。これはあたかも蛇《へび》の皮を脱するごとく、物体の表面からはがれて、あとからあとからと八方に飛び出す。その速度は莫大《ばくだい》なものである。これが目を打つと同時にわれわれはその物体の形と色を知覚する。この像が鏡に衝突すると、反射し、そして「裏返し」になって帰って来る。物の距離の感ぜられるのは、像が飛んで来る時に前面の空気を押して目におしつけるためである。そのために鏡に映ったものは、鏡の後ろにあるように距離が感ぜられるというような解説がある。
反射角と入射角と等しいという意味の言葉もある。水中に插入《そうにゅう》した櫂《かい》の曲がって見える事は述べてあるが、屈折の方則らしいものは見いだされない。また数多《あまた》の鏡による重複反射の事実にもともかくも触
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