の自然方則に支配されている、その記述に移らんとするための前置きとも見られない事はない。すなわちその次に彼はすべての物質は自分の力では「上方」には上らないという方則を持ち出すのである。
 見かけの上から「上」に浮かぶものはいろいろあるが、それは別に働力のためであると考えている。これもストア派に対する反対だそうである。
 この考えからすると、すべての元子は皆「下」にまっすぐに落ちる。その場合いかにして元子相互間の衝突が可能となるか。この困難を切り抜けるために持ち出された一つの今から見て奇抜な考えは、この元子のおのおのはその直線的並行落下の途中で、ある不定な時、不定な場所において、おりおり、きわめて少しその経路を曲げるというのである。
 しかし各種元子の中で、重いのと軽いのとで各自の落下速度がちがうとすれば相対距離が変化するから相互の衝突が起こりうるではないかという人があるだろう。しかしそれは誤っている。なんとならば、真空中では抵抗がないから、すべての元子は同速度で落下するからである、とルクレチウスは断言している。彼がおそらくなんの実験にもよらずしていかにしてこの落体に関するアリストテレスの
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