or, lo, each thing is quicker marred than made;
[#ここで字下げ終わり]
という句がある。これを試みに熱力学第二方則の最初の宣告と見るのも興味がありはしないか。
 彼はなお、もし物質に最小限がなければ、最小なものでも無限を包蔵し、従って微分と総和の区別がなくなるという哲学者流の議論をしている。このあたりの議論はおそらく科学者にはあまり興味がないであろう。哲学的のスケプチシズムに対しては何かの意味はあるかもしれないが、われわれにはたいして直接の必要のない議論である。なんとならば、科学は畢竟《ひっきょう》「経験によって確かめられた臆断《おくだん》」に過ぎないからである。われわれはここではただエピキュリアンのこれらの驚くべき偉大なる臆断を嘆美すればよい。
 ルクレチウスは、かようにして、彼のいわゆる元子の何物であるかを説明した後に、エピキュリアンに対立した他の学説に対して峻烈《しゅんれつ》な攻撃を加えているのである。万物が火より成るとか、地水火風から成るとか、また金は金、骨は骨と、いわゆるホメオメリアより成るとか、そういう考えから来る困難を列挙
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