を考えようとすることの方法論的の錯誤あるいは拙劣さが、今このルクレチウスの言葉によって辛辣《しんらつ》に諷《ふう》せられているとも見られない事はない。
ともかくも物質元子に、物体と同様な第二次的属性を与える事を拒み、ただその幾何学的性質すなわちその形状と空間的排列とその運動とのみによって偶然的なる「無常」の現象を説明しようとしたのが、驚くべく近代的である。そしてまさにこの点で彼が、彼の駁撃《ばくげき》を加えているヘラクリトス、エンペドクレース、アナクサゴラスの輩《やから》をいかにはるかに凌駕《りょうが》しているかを見る事ができよう。そして現在においても科学者と称するものの中に、この三者の後裔《こうえい》が、なおまれには存在している事を彼によって教えられるのである。
元子は恒久的な剛単体 solid singleness でなければならない。そして微小ではあるが有限の大きさをもたなければならないという事を証明しようと試みている。剛体でなければ、それから剛体が作り得られないであろう。恒久なものでなければ、恒久に無常なこの世界を補充 replenish する事ができないであろう。またもし
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