い本であるという考えを深くした。
 マンローの注は、もちろんラチンの原文を読まんとする人のために作られたものであって、自分のような古典の知識のないものにとっては大部分はいわゆるねこに小判である。しかし原詩の十行あるいは三十行ごとに掲げた摘要は便利なものである。
 マンローの第三巻はこの人の対語訳で、同じものがボーンのポピュラー・ライブラリーの中にも出ているそうであるが、自分はまだこの訳を読んでいない。
 思うにルクレチウスを読み破る事ができたら、今までのルクレチウス研究者が発見し得なかった意外なものを掘り出す事ができはしないかと疑う。それほどにルクレチウスの中には多くの未来が黙示されているのである。
 アンドラデの解説によると、近代物理学の大家であったケルヴィン卿《きょう》もまたルクレチウスの愛読者であった。すなわち卿の一八九五年のある手紙の一節に「このごろ、マンロー訳の助けをかりてルクレチウスを読んでいた。そして原子の衝突についてなんとか自分流儀の解釈をしてみようと思ってだいぶ骨折ってみたが、どうもうまくできない」と言っている。
 ルクレチウスの黙示からなんらかの大きな啓示を受けた
前へ 次へ
全88ページ中4ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
寺田 寅彦 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング