そんなに目立たなくなって来るとやせた腰からあと足が妙に見すぼらしく見えるようになりはしたが、それでもどうやら当たりまえの猫《ねこ》らしい格好をして来るのであった。そしてやはりどこか飼い猫らしい鷹揚《おうよう》さとお坊っちゃんらしい品のある愛らしさが見えだして来た。
夏休みが過ぎて学校が始まると猫のからだはようやく少し暇になった。午前中は風通しのいい中敷きなどに三毛と玉《たま》が四つ足を思うさま踏み延ばして昼寝をしているのであった。片方が眠っているのを他の片方がしきりになめてやっている事もあった。夕方が来ると二匹で庭に出て芝生《しばふ》の上でよく相撲《すもう》を取ったりした。昼間眠られるようになってから夜中によく縁側で騒ぎだした。これには少し迷惑したが、腹は立たなかった。台所で陶器のふれ合う音がすると思って行って見ると戸を締め忘れた茶箪笥《ちゃだんす》の上と下の棚《たな》から二匹がとぼけた顔を出してのぞいていたりした。
ねずみはまだついぞ捕《と》ったのを見た事がないが、もうねずみのいたずらはやんでしまって、天井は全く静かになった。
縁の下で生まれたのら猫の子の三毛は今でも時々隣の庇
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