の高さに達しうるものと考えられる。
 こういう気流が実際にあるかと言うと、それはある。そうしてそういう気流がまさしくとんびの滑翔《かっしょう》を許す必要条件なのである。インドの禿鷹《ヴァルチュア》について研究した人の結果によると、この鳥が上空を滑翔するのは、晴天の日地面がようやく熱せられて上昇渦流《じょうしょうかりゅう》の始まる時刻から、午後その気流がやむころまでの間だということである。こうした上昇流は決して一様に起こることは不可能で、類似の場合の実験の結果から推すと、蜂窩状《ほうかじょう》あるいはむしろ腸詰め状|対流渦《たいりゅうか》の境界線に沿うて起こると考えられる。それで鳥はこの線上に沿うて滑翔していればきわめて楽に浮遊していられる。そうしてはなはだ好都合なことには、この上昇気流の速度の最大なところがちょうど地面にあるものの香気臭気を最も濃厚に含んでいる所に相当するのである。それで、飛んでいるうちに突然強い腐肉臭に遭遇したとすれば、そこから直ちにダイヴィングを始めて、その臭気の流れを取りはずさないようにその同じ流線束をどこまでも追究することさえできれば、いつかは必ず臭気の発源地に
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