っそうそうなるから妙である。それでわれわれはこれらの動物を師匠にする必要が起こって来るのである。潜航艇のペリスコープは比良目《ひらめ》の目玉のまねである。海翻車《ひとで》の歩行はなんとなくタンクを思い出させる。ガスマスクをつけた人間の顔は穀象《こくぞう》か何かに似ている。今後の戦争科学者はありとあらゆる動物の習性を研究するのが急務ではないかという気がして来る。
光のかげんでからすうりの花が一度に開くように、赤外光線でも送ると一度に爆薬が破裂するような仕掛けも考えられる。鳳仙花《ほうせんか》の実が一定時間の後にひとりではじける。あれと似たような武器も考えられるのである。しかしまねしたくてもこれら植物の機巧はなかなかむつかしくてよくわからない。人間の知恵はこんな些細《ささい》な植物にも及ばないのである。植物が見ても人間ほど愚鈍なものはないと思われるであろう。
秋になると上野《うえの》に絵の展覧会が始まる。日本画の部にはいつでも、きまって、いろいろの植物を主題にした大作が多数に出陳される。ところが描かれている植物の種類がたいていきまり切っていて、だれも描かない植物は決してだれも描かない。
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