九月初旬三度目に行ったときには宿の池にやっと二三羽の鶺鴒《せきれい》が見られた。去年のような大群はもう来ないらしい。ことしはあひるのコロニーが優勢になって鶺鴒の領域《テリトリー》を侵略してしまったのではないかと思われる。同じような現象がたとえば軽井沢のような土地に週期的にやって来る渡り鳥のような避暑客の人間の種類についても見られるかどうか。材料が手に入るなら調べてみたいものである。
[#地から3字上げ](昭和九年十二月、文学)
底本:「寺田寅彦随筆集 第五巻」小宮豊隆編、岩波文庫、岩波書店
1948(昭和23)年11月20日第1刷発行
1963(昭和38)年6月16日第20刷改版発行
1993(平成5)年10月15日第61刷発行
入力:田辺浩昭
校正:かとうかおり
1999年11月17日公開
2003年10月22日修正
青空文庫作成ファイル:
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