jを欠いてゐる。或は少くとも恋愛修養が必要であるといふ理解を欠いてゐる。而してこれ等の言辞を以て徒らに全ての恋愛者の感情を膨脹せしめ遂に彼等を気球にて人生より高く飛翔せしむる誘惑の言葉であると見做してゐる。恋愛者は其処より自己に対する二重の尊敬に魅せられて人生を見下すのであると彼等は考へてゐる。言葉を換へて言へば人生に於ける恋愛の価値に対する凡ての弁護は、恋愛のために全ての他の人生の価値を軽視するものとして説明せられてゐるのである。
かくの如く云ふ人々は宗教が愛といふ範囲に於てのみ人を浄化し、又力を与ふるものであり、人間の精神はそれが何物かを愛してゐる程宗教的に、又宗教の必要を感じてゐるものであるといふ事実を知らないのであらうか、何故なれば精神の力量は制限せられてゐる。その精力が一方に注がれる時には同時にそれを他に与ふることは出来ないのである。恋愛といふものは全ての感情の中で最も精神を発展せしむるものであり、又最も統合的でもある。特に全ての愛の中の最高なるものを吸収する恋愛は霊肉の合致となり、個人的生活と社会的生活の一致ともなり、偉大にして神秘なる世界的薔薇《ワールドローズ》の花芯と
前へ
次へ
全54ページ中24ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
伊藤 野枝 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング