虔の念を以て人生を眺めた時彼等の宗教であつた様に再び高き標準の上に立つ吾人の宗教でなければならないと――。
 人生の目的は人生それ自からである。恋愛は人生の宗教である。否独り恋愛のみならず人生のあらゆる精神的発想、創作、真理探求、美に対する歓喜、或は労働の如き一として宗教ならざるはないと云つたゲーテの言葉は万人に対して真である。これ等は人生の全体に関連してゐる程度に従つて各一つの宗教である。言葉を換へて云へばあらゆる宗教は全てを包含する調和の感情といふ宗教中に消え去るのである。その感情に対しては人生の向上は唯一の適宜なる神聖の奉仕であつて一般生活の黙示は日常の祈祷である。この礼拝は時代より時代に生命の焔を搬ぶ力に対して特に捧げられなければならないであらう。而してその礼拝が真摯にして敬虔の度を増すに従ひ各時代は前代より次第にその程度を高むるであらう。
 人類が種族を維持して行く他の方法を発見する迄は性的関係が地上に於ける生の根原であることは否むべからざる事である。故に進化論上より見たる人生観は性的関係を以て凡《あら》ゆる人生の進歩に対する出発点と見做さなければならない。而して人生の発達進
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