声を有する天賦ある数人の運命に就て語つてゐる。かくの如く異常なる心力を有する婦人の生涯の記述を通じて円満、完全なる美しき生活に対する不満の欲求とその欠乏より生ずる不安と寂寞の著しき足跡が印せられてゐる。これ等の立派なる心理的描写を通じて吾人は女子の智力が発達すればする程彼女にその性ばかりでなく、人類、友人、伴侶及び強き個性を認める様な配偶者に出遇ふことが愈々むづかしくなつてゆくのを見ない訳にはゆかない。彼女の配偶者は彼女の性格の一点一画をも見逃してはならないのである。
 男子は一般に自負心を有してゐる。而して女性に対し当然保護の力あるものゝ如く滑稽なる虚勢を示すものが多い。かくの如き男子はラウラマルホルムによつて描かれたる婦人の配偶者たるべく到底不可能である。又|只管《ひたすら》彼女に智力と天才とを認むるばかりで女子の天性を覚醒することをあやまるが如き男子も等しく彼女に協《かな》はざる者である。
 豊富なる智力と美しき心とは通常深く美しき性格の必然なる属性と考へられてゐる。近代婦人の場合に於ては、これ等の属性は彼女の存在の完全な肯定に対して障碍となつてゐるのである。「死が別離を余儀なく
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