いう言葉も、私が今一度に感じた複雑な感じのほんの隅っこの切れっぱしにすぎないとしか思えないような、不満な思いがするのであった。冬ではあるが、それでも、こうして立っている足元から前に拡がったこの広大な地に、目の届く処にせめて、一本の生々とした木なり草なり生えてでもいることか、ただもう生気を失って風にもまれる枯れ葦ばかり、虫一匹生きていそうなけはいさえもない。ましてこの沼地のどこに人が住んでいるのだなどと思えよう?
 案内役になった連れの男はさっさと歩いていく。どこをどう行くのかも分らずに、ついていくのに不安を感じては私は聞いた。
「谷中の人達の住んでいる処まではまだよほどあるのですか?」
「そうですね、この土手をずっとゆくのです。一里か一里半もありますかね。」
 道は幅も広く平らだった。しかし、この道をもう一里半も歩かなければならないということは私にはかなり思いがけもないつらいことだった。ことに帰りもあるのに、この人里離れた処では乗物などの便宜のないというわかり切ったことがむやみに心細くなりだした。それでもこの雪もよいの寒空に自分から進んで、山岡までも引っぱって出かけて来ておいて、まさか
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