から3字上げ](八日)
おととい[#「おととい」に傍点]の晩は酒を飲んでいる上にかなり疲れていたものだから二三枚書くともうたまらなくなってきて倒れてしまった。昨夜も書こうと思ったのだが汝の手紙がきてからと思ってやめた。二日ばかりおくれてもやっぱり気になるのだ。今日帰ると汝の手紙が三本一緒にきていたのでやっと安心した。今夜ももう例によって十二時近いのだが俺はどうも夜おそくならないと油がのって来ないのでなにか書く時には必ず明方近くまで起きてしまう。それに近頃は日が長くなったので晩飯を食うとすぐ七時半頃になってしまう。俺は飯を食うとしばらく休んで、たいてい毎晩のように三味線を弄ぶか歌沢をうたう。あるいは尺八を吹く。それから読む。そうするとたちまち十時頃になってしまう。なにか書くのはそれからだ。今夜はこれを書き初める前に三通手紙を書かされた。俺はあえて書かされたという。Nヘ、Wへ、それからFヘ、なんぼ俺だってこの忙しいのに、そうそうあっちこっちのお相手はできない。それに無意味な言葉や甘ったるい文句なぞを並べていると、いくら俺だって馬鹿馬鹿しくって涙がこぼれて来らあ。人間という奴は勝手なものだ
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