いる登志子の横顔をのぞいて、慰さめるようなものやさしい調子でこういった。彼女は四五年越し会わなかった友達の不意の訪問におどろきながらも、一通りならずよろこびながら、
「本当にうれしいわ。いつまでもいて頂戴ね、いいんでしょういくら遊んでいても、ね? いいでしょう、私ほんとにつまらないつまらないと思っていたところなんだから、どんなにうれしいか、本当にいて頂戴」
心から懐しそうな調子だった。登志子は今し方あの寒い冷たい雨の中を、方面も分らない知らぬ田舎道を人力車にゆられて、長い長い道をここまで来る間の心細さとこれから先の自分の身の上についてのさまざまな事のもつれを思って、震える悲しみをじっと噛みしめてもし友達のいない時にはどうしたらいいか、そんなことはないとは信じながらも、もしかして志保子の調子が冷淡で自分がわざわざ尋ねて行く目的を果すことができなかったらどうしたらいいかというような、すぐ目前に迫った事柄について考え考えわくわくしながらこの家をたずねあてるまでの気を想い出して、それらの一つに凍った悲しい気分が友達のその暖かい言葉やもてなしに会ってはじめて溶けて行くように思えた。そして彼女は
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