ズグズ起きている。でこれから何かまた少しものをいって見ようと思う。
明日あたりまた手紙が来ることだろうと思うが――俺がこないだ書いた手紙はかなり向う見ずなものだったなあ、まあ、しかし俺はあんなことが平気で書けることを自分では頼もしいと思っている。俺は口に出して実はいってみたいといつでも思っているのだがなかなか口はいうことをきかなくて。三日の手紙はかなり痛快な気持ちを抱いて読み終わった。大分孤独をふりまわしたな、人間は孤独なものよ――深く突込んで思案したら、何人でも救われることのできない孤独の淋しさにおそわれるだろう。しかし世の中にはいろいろなものがあってそれを暫くでもごまかしてくれる。宗教、芸術、酒、女(女からいえば男)などがそれだ。無論各自の程度によって求むる種類と分量というようなものは異っていくだろうが、とにかくそんなものなしには一日も生きていくことはできないのだ。
血肉の親子兄弟――それがなんだ。夫婦朋友それがなんだ、たいていはみな恐ろしく離れた世界に住んでいるじゃないか、皆恐ろしい孤独に生きているじゃないか。しかしたまたまやや同じような色合の世界に住んでいる人達が会って、そうしてできるだけお互いの住んでいる世界を理解しようと務めてかなり親しい間柄を結んでいくことがある。それは実に僥倖といってもいいくらいだ。もっとも理解という意味にはいろいろある。二人が全然相互に理解するというようなことはまあまあないことだと思う。またできもしないだろう。ただ比較的の意にすぎない。
俺は筆をとるとすぐこんな理屈っぽいことをしゃべってしまうがこれも性分だから仕方ない許してもらおう。俺は汝を買い被っているかもしれないがかなり信用している。汝はあるいは俺にとって恐ろしい敵であるかもしれない。だが俺は汝のごとき敵を持つことを少しも悔いない。俺は汝を憎むほどに愛したいと思っている。甘ったるい関係などは全然造りたくないと思っている。俺は汝と痛切な相愛の生活を送ってみたいと思っている。もちろんあらゆる習俗から切り離された――否習俗をふみにじった上に建てられた生活を送ってみたいと思っている。汝にそこまでの覚悟があるかどうか。そうしてお互いの『自己』を発揮するために思い切って努力してみたい。もし不幸にして俺が弱く汝の発展を妨げるようならお前はいつでも俺を棄ててどこへでも行くがいい。
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