そして或者は、打たれさへもした。その報告は役人仲間に大きな擾乱《じょうらん》を起す原因になつた。
特別の調査が命ぜられたが、勿論それはアメリカでの同じやうな調査のやうに誤魔化しに終つた。青年共産党の委員会は『大げさ』な事を云ふと云つて叱られた。そんな話は反革命の作り話だと云つて、プラウダの論文は載せない事にきまつた。
六
私はその事で或る共産主義者と議論した。どうしてこんな事がソヴイエツト・ロシアに起るのか? 私は『信頼すべき、そして能力ある働き手の欠乏だ』と云ふ型にはまつた答を受け取つた。で、『私は道徳的不具者』のやうに烙印を押された不運な子供達の中で仕事をする事を提議した。
『同志リリナにお会ひなさい』と私は忠告された。『彼女はきつとあなたを喜ばすでしよう。』
数日の後同志リリナを訪ねた。彼女はむづかしい顔をした虚弱な女で典型的な五十年以前のニユウ・イングランドの女教師だつた。私は彼女が最も立派な心理学と教授学との法式をよくのみ込んで居り、それに親しんで来た人だと云ふ事を確かめた。私はかまはず、子供の道徳的堕落の理論の信じられない事、そしてそんな時代後れの見解に支へられてゐるのは非現代的な教育者である事、少年犯罪者でも不具者の子供達と同様に罰したり烙印を押したりする事の出来ないと云ふ事を彼女に話した。
此の会見は私に、もしも私が小さい犠牲者達の間で働くとしたら、私の努力は一歩毎に、此の固苦しい、そして独断的な淑女から妨げられるだらうと云ふ事を納得させた。彼女はまた恐らく自分だけで、共産主義者の国家で無政府主義者に子供の世話を委《まか》すのは危険な事だと考へたらう。何れにしても私のもくろみは無駄だつた。
ボルシエヴイキ制度の腐敗や濫用や無能は、当然信頼の出来る働き手の欠乏が責任を負ふのだと云ふ屡々繰返されたボルシエヴイキの此の言葉が、ウソだと云ふ例証として、私は此の話をするのだ。
ロシアにゐた間に、私は教育や、経済や其の他の非政治的仕事に、才能もありよろこんで協力する驚く程多くの人々に接触した。が、彼女は共産主義者でないところから、有らゆる敵意と努力とを無駄にさせて了《しま》ふスパイ制度に取りかこまれて、それに睨まれて邪魔されてゐる。
七
四ヶ月間のウクライナの旅の間に、私はいろんな託児所や幼稚園や寄宿学校や又児童植民地な
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