くして窓にかたくなって凭っていた。
「あ着いた着いたもう箱崎だ、あと吉塚、博多だわね」
まき子は勢いよく立って荷物の始末をしはじめた。登志子は今さらのようにはっとした。なるべく避けよう避けようとした時がもう目前にせまった。
「かまうものか仕方がない、なるようにしかならないのだ。行きづまる所まで――」
何故かしらこみ上げてくる涙をグッと呑み込んで、勢いよく彼女はたち上がった。汽車は見覚えのある松原を走っている。松の上からは日蓮の首がニュッと出ている。
「来た――博多だ――遂に、遂に――」
地響をさせて入ってきた汽車はプラットホームにそって長々と着いた。ピタリと汽車の動揺が止むと、激しい混乱が登志子の頭を瞬間に通りすぎた。
まき子が大さわぎして降りる後から登志子は静かに下車した。降りると少し離れた向側の人と人との間にチラと覚えのある叔父の外套の袖が見えて、やがて此方へ急いで来る。続いて来る若い男の顔を見ると登志子は我知らずブルブルっと震えた。
「あの男が来ている、あの男が――ああいやだ! いやだ!」
彼女はクルリと後を向いて、左のあらぬ方を向いた。そこにはまたいま自分達の乗って
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