そぐわぬものになって極めて不自然に滑稽に見えた。彼女はひとりでその叔父の真面目くさった、道学者めいた事を口にするのを見ては心の中で嘲笑っていた。叔父や叔母のいう事に一としてそれらしい権威を含んだものはなかった。彼女には馬鹿にしきった人にいろいろな事を話したり聞いたりする勇気はなかった。何といわれても聞かれても彼女は黙っていた。
「今に――」と彼女はいつも思った。
「今に――自分で自分の生活が出来るようになれば私は黙ってやしない。私は大きな声で自分がいま黙って軽蔑している叔父等の生活を罵ってやる嘲笑ってやる。私は私で生活が出来るようになりさえすればあんな偽善はやらない。少なくともあんな卑劣な根性は自分は持ってはいない。――」
いつも彼女はこんな事ばかり考えていた。そうして叔父と声を大きくして争う日を待ちかまえていた。
いつ知らず――しかし登志子は叔父の狡滑な手にかかって尊い自己を彼の生活の犠牲に葬られさろうとしていた。
世の中は幼稚な単純な登志子の目に映りまた考える程正直なものでも真面目なものでもなかった。生活ということ――ことに実生活を豊かにする事のためには、悪がしこい叔父の智慧
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