。おなじつづいた空の下でおなじ空気を吸っていて――それでもう駄目だ。彼女はボーッとしてしまった。眼がクラクラっとした。
場内が何となくざわめいてきて、身つくろいしたり、落ちつかないような風で改札口の方へのぞきに行ったりする人がたくさんある。
「もうあと十五分よ、登志さん」
と声かけられてあわてて立ち上がった。しかしまだ十五分だと思うと拍子ぬけがしたようだ。
フトそこらの人々を見ると登志子は急に何ともいえない哀しい心細い気がしだした。登志子はこの旅行の途中大阪で連れをはなれて、それから四国にいる、彼女のためになってくれる人を頼って隠れるつもりでいたのだ。それを思い出すと不案内の土地の停車場でまごついている心細い自分を、その時の自分の心持をこの停車場のどこかに見出した。
彼女の心はまた沈んでいった。彼女の考えていることが行きづまるところはやはりどうしても「駄目」と投げ出さなければならなかった。そうした言葉がふとしたはずみに大きな吐息に表われた。はっとした彼女は、つと立ってしまった。いつの間にかすっかり自分の気持に釣込まれて、自分に少しの同情もない何にもしらないまき子や、ことに自分とは
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