しかしだまっている訳にはいかない。ようやくしぼり出したような苦しい笑を報いながら、
「ええありがとうやっとどうにか――」と小さな声でいって下向いた。
「どうかしたの、真青な顔だ、気分でも悪い?」
「え、少し疲れたからでしょう」
「そう、前のはまき子さんと叔父さんだろう」
「ええ」
階段を降りて入口を出ようとする所で叔父と田島は挨拶を交わした。田島は改めて卒業の祝辞を叔父にいった。叔父の顔はいかにも満足気に輝いた。
「え、まあどうにかつまづきもなくおかげさまで卒業までに漕ぎつけました。いやしかしどうもずいぶん骨が折れましたよ――」
「そうでしょう、しかしもう大丈夫ですよ御安心が出来ますね、本当に結構でした」
と傍のまき子の方に顔を向けた。叔父は忙しそうにそわそわしながら手荷物の世話などしはじめた。
登志子は呆然とそこに立っていた。永田に言葉をかけられることが恐ろしくてたまらなかった。なるべく彼と面を合わせないように合わせないようにと注意しながら立っていた。田島にだけは何かいいたいことがあるように思われていらいらした。いくども二人は顔見合わせた。そのたびにお互いに何かいいたげな顔をして
前へ
次へ
全18ページ中13ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
伊藤 野枝 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング