ぱってきて、集合をしたり、演説会をしたりして、官憲の圧迫に反抗しながら勇敢に宣伝を続けておりました。
彼の頭はメキメキ進みました。自分の姓名さえも満足に書くことのできないYが、いつの間にか、むずかしい理屈を、複雑な言葉で自由に話すようになったのには、誰も彼も感心しました。私共も、彼の執拗な質問にはなやまされましたが、それでも、一度腹に入った理屈は立派に自分のものにコナ[#「コナ」に傍点]してしまう頭を彼は持っていたのです。彼はどんなちょっとした他人の言葉尻でも、決して空には聞き流しませんでした。同志の人達は、彼とは係りなしに話しているのに、彼が横合からその言葉尻を捕えて腑に落ちるまで問い訊さねばおかないので、大事な話を台なしにされることがよくありました。けれども彼はその執拗な質問で自分の耳学問を進めていったのです。そして彼はその聞き噛った理屈を自分の過去の生活にあてはめて見ることを忘れませんでした。彼の耳学問はそういう風にしてだんだんと物になってきたのです。折々は、聞きかじりの間違った言葉や理屈でよく若い同志達に笑われたりしましたが、それでも彼はそんなことでは決してへこみはしませんで
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