きた頃から、彼はまた同志に対しても、以前の無遠慮をとり返してきました。彼と若いNの激論が毎日のように始まりました。そしてとうとう彼は私の家を去りました。
 Yはその時すでに、生活の方法を失っていました。彼は再び鍛冶屋になって働く気をもう少しも持っていませんでした。止むを得ぬ事情の下におかれて、彼は同志の家で、食客の出来る家を転々し始めました。三月の末に、Oが三月の刑期を終えて出獄する頃には、私にはもうYの将来に対する望みはまったくなくなっていました。が、それでもまだ、それ程ひどく、彼は自分の道を踏みはずしているようにも見えませんでした。
 が、彼は明白にOに対する反感を現わし始めたのは、私共が曙町を引き払うのに前後した時分からでした。私はそんないやしい動機が直接の因をなしたとはいいませんが、少なくともその時に受けた不快な気持が、前々からの私共の生活に対する反感と一緒になって、それ以後の私共の生活に対する批難になったのではないかという疑問を一つ持っています。
 それはOが出獄してから幾日もたたないうちです。牢から出てくると、彼は今まで極端に押えられた食物に対する欲望を満すことで夢中でした
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