けていたのだそうです。しかもその罰は彼がもう三日いなければ、おしまいにはならぬのだと彼はいっていました。
 獄中での唯一の彼のおしゃべりの時間は教誨師の訪問を受ける時でした。教誨師は彼をしきりに説き伏せようとしました。が、博学な教誨師がいつも無学なYの理屈にまかされたのです。
「だけんど、俺がたった一つ困ったことがあったんだ。」
 彼はそういって私に話しました。
「俺のような無学な者にまけるもんだから、奴よっぽど癪にさわったんだね。ある時来ていうには、『お前は、誰も彼も平等で、他人の命令なんかで人間が動いちゃいけないといったな、命令をする奴なんぞがあるのは間違いだといったなあ。だがねえ、たとえば人間の体というものは、頭だの体だの、手だの足だの、また体の中にはいろいろな機関がはいっている。そのいろんな部分がどうして働いてゆくかといえば、脳の中に中枢というものがあって、その命令で動いているんだ。この世の中だって、やっばりそれと同じだよ。命令中枢がなくちゃ、動かないんだ』とこういいやがるんだ。成程なあ、俺あそんな体のことなんか知らねえから返事に詰まっちゃったんだ。すると坊主の奴、『どうだ、そ
前へ 次へ
全29ページ中19ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
伊藤 野枝 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング