それを冗談として取り消してしまおうと思いました。けれども、私は現在の自分を振り返って見ましたとき、それを単純に取り消してしまうつもりになってすましてはいられませんでした。辻に対する私の持っているというその愛にその時始めて疑いを持ちました。私は自分の気持が自分ながらたしかに解らないので二三日苦しみました。それは今まで私が大杉さんに持っていた親しみは、単純なフレンドシップ以外の何物でもないと思っていましたのに、急にそれが恋愛に進んだということが、非常に不自然に感じられましたから。もっともそれには、二人の態度にはお互いに曖昧な、ふざけた調子を多分に持っていましたので、私はすぐに大変自分の態度について自分を責めなければなりませんでした。そうして、私は、ちょうど私の気持が安定を失して、どこかに落ちつき場所を見出そうとして無意識に待ちかまえていた、その機会を見出したのだと思いました。そして、どこまでも大杉さんとの間を、フレンドシップで通そうと思いました。
 辻とは、すぐに別れる決心がその場で出来たのです。で、私はすべてのそれに対する気持を辻に話そうと思いました。それには話をして、なおいろいろな詰問
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