いろ/\ある。そして其境が異なれば読書の味もおのづから異なつてゐる。取り分け寸陰を惜む上から来る読書は勉強家の為す所で、斯る苦学を蛍雪の二字を形容してゐるが、案外窮苦の読書は暖飽の人の知らない収穫の多いものである。随つて斯る境地の読書は決して閑却すべきでないが、併し較々異例であるから、これらは八境の外に置くことにした。
 閣筆に臨んで支那人の読書を頌する詩一篇を掲げる。

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富[#レ]家不[#レ]用[#レ]買[#二]良田[#一]。書中自在[#二]千鍾粟[#一]。安[#レ]居不[#レ]用[#レ]架[#二]高堂[#一]。書中自在[#二]黄金屋[#一]。出[#レ]門莫[#レ]恨[#レ]無[#二]人随[#一]。書中車馬多如[#レ]簇。娶[#レ]妻莫[#レ]恨[#レ]無[#二]良媒[#一]。書中有[#二]女顔如[#一レ]玉。(下略)
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 此詩の如くなれば、読書に拠つて得られないものとては無い。妻子珍宝富貴利達、皆書中に在り、即ち読書は万能である。此の詩意を以て心とすれば、読書ほど楽しいものは無いとも謂へる。



底本:「日本の名随筆36 読」作品
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