近道ですよ。木山さんの例もありますからね。」
 木山博士は圭介の友人で、大学を卒業するまでに二回養子に行き、卒業してから一回、博士になつてからも一回、都合四回養子先と女房を変へて出世した男であつた。
「ぢや、お前は木山さんのやうになりたいんですか。」
「木山さんには私淑《ししゆく》してゐます。時々会うて世渡りの秘訣《ひけつ》を拝聴してゐますよ。」
「お母さんのことはどう成つても構はぬのですか。」
「いや、もし何でしたら、お母さんも一緒に北井の家へ来て貰つても構ひませんよ。」
 太い眉毛は今こそ兄の顔になくてかなはぬものだと、楢雄は傍で聴きながらふと思つたが、しかし口をはさまうとはせず、寿枝が哀願めく眼を向けても、素知らぬ顔で新聞の将棋欄を見てゐた。
 半月許りたつて、五十前後の男が手土産らしいものを持つてやつて来た。浜甲子園の北井の使ひだといふので、寿枝はさつと青ざめた。ところが、その使ひは意外にも今後北井家では修一さんとの交際を打ち切ることにしたから悪しからずといふ縁談の断りに来たのだつた。使ひの男は寿枝の饗応《きやうおう》に恐縮して帰つた。
 修一は夙川の下宿を引き揚げて来て、妾の
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