いわ。ねえおっ母さん、あたい本当にそんなことしなかったのよ、皆が言ってるのは嘘よ、だからお父っさんにたのんで、外へ出して貰ってよ」と、母親にたのんだ。安子に甘い母親はすぐ父親に取りついたが、父親は、
「鉄公とあったかなかったかは、体を見りゃ判るんだ。あいっの体つきは娘じゃねえ」
 と言って、この時ばかりは女房に負けぬ男だった。
 ところが二十日許りたって、母親がいつまでも二階に監禁して置いてはだいいち近所の体裁も悪い。それに学校や踊はやめてもせめてお針ぐらいは習わせなければと父親を口説き、お仙ちゃんなど半年も前から毎日お針に行ってるから随分手が上ったと言うと、さすがに父親も狼狽して今川橋の師匠の許へ通わせることにした。
 安子は二十日振りに外の空気を吸ってほっとしたが、何もしなかったのに監禁の辛さを味わせた父親への恨みは残り、お父つぁんがあくまで何かあったと思い込んでいるのなら、いっそ本当にそんなことをしてやろうかと思った。どうせ監禁されたのだから、悪いことをしても差引はちゃんとついている。このままでは引合わない、莫迦な眼を見たのはあたいだけだからと云うそんな安子の肚の底には、皆が大騒
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