だ……ときかれても、咄嗟に答えられるわけではなかったが、しかし……。
「――もしかしたら……何かが……」
 あるのではなかろうかという予感が、ないわけでもなかった。
「とにかく宿へ帰ってみよう」
 著物を持たずに帰ったところで致し方はないが、しかし、寿司の土産はある。
 著物を手に入れるあてもなく、まごまごしていたずらに時間を空費しておれば、雪子の空腹は増すばかりだと、小沢は淀屋橋から地下鉄に乗った。
(作者はここで再び註釈をはさみたい。――即ち、偶然というものは、続き出すときりがない……と。)
 亀吉が同じ車輛に乗り合わせていたのだ。
 しかし、小沢は亀吉の顔には見覚えはなかった。たとえ亀吉の顔を見ても、それが自分の荷物を横取りした男だとは、気がつかなかった。
 亀吉の方でも、小沢に気がつかなかった。
 車内が混んでいたからだ。
 ところが、電車が大国町の駅を発車して間もなく――。
「掏摸だ」
 という声があった。
 声はすぐ人ごみの隙間を伝わり、
「掏摸だ、掏摸だ」
 真青な唇と、不安な唇と、好奇的な唇が、右へ向き、左へ向いた。
 何を見ても、何をきいても、日々これ驚くべきことばか
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