かし兄貴はなんでこない何時もびっくりせえへんネやろな。ヒ、ヒ、ヒ……」
 実にさまざまな、卑屈な笑いを笑った。
「当りきや。そうあっさりと、びっくりしてたまるか。おい、亀公、お前この俺を一ぺんでもびっくりさせることが出来たら、新円で千円くれてやらア」
 蓄膿症をわずらっているらしくしきりに鼻をズーズーさせている亀吉の顔を、豹吉はにこりともせず眺めて、
「――お前ら掏摸のくせに、千円の金を持ったことないやろ」
「持たいでか。それここに……」
 亀吉は胸のポケットを押えた。
 豹吉はちらと見て、
「なるほど、持ってやがる。まア二千円ってとこかな」
「えッ」
「どや、図星やろ。あはは……。それくらいの眼が利かないで、掏摸がつとまるか。まア、掏られぬように気イつけろ」
 豹吉が言うと、お加代もはじめて微笑して、
「亀公にしてはめずらしい大金ね。拾ったの?」
 と、冷かすと、亀吉はふっと唇をとがらせて、
「何をぬかす。拾った金なら届けるわい」
「じゃ、掏った金なら持ってるの……」
「そや」
「本当に掏ったの……」
「当りきシャリキ、もちろん……おまけに、掏ったのが紙一枚、それが二千円とはごついや
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