しの近頃の世相である。いちいち莫迦正直に驚いていては、弱い神経の者は気が狂ってしまう。だから、もう大阪の人々はたいていのことには驚かなくなってしまっている。
が、掏摸ときけば、やはり動揺があった。その動揺した人々の中で、最も動揺していたのは――。
亀吉だ!
「掏摸や、掏摸や!」
亀吉はきょとんとした表情で、人よりも大きな声を出して、叫んでいた。
実は、亀吉が仕事をしていたのではなかった。
「おれやないとしたら、どいつやろ!」
と、見廻した時、電車は動物園前に停った。
すると、一人の男がそわそわと降りた――かと思うと、復員姿の男がそのあとを追うようにして降りた。
その顔を見て、亀吉はおやっと眼を瞠った。
「あ、あの男だ」
小沢だったのだ。亀吉はあわててあとを追うた。
動物園前から阿倍野橋の方へゆるやかに登って行く、広いコンクリートの道――
小沢は足速やにそわそわと歩いて行く男のあとをつけて行きながら、
「今日はよく人を尾行する日だ」
と、苦笑していた。
阿倍野橋で降りる筈だったのを、わざわざ動物園前で降りたのは、無論その男が降りたからだった。
「怪しい!」
と、思ったのである。
もっとも、その男が地下鉄の中で掏ったところを目撃したわけではない。が、何となく態度や表情がおかしいと、ピンと来たのだ。いわゆる挙動不審というやつである。
しかし、つけて行きながら、本当に掏ったのだ――という自信はなかった。いわば無責任な尾行であった。いや、もしかしたら、無気味な尾行かも知れない。
ところが、男はちらと振りむいた。
視線がばったり合った。
途端に、男はぎょっとしたようだった。そしてぱっと駈け出した。
「あ、やっぱし……」
おれの直感があたった――と咄嗟に呟きながら、小沢はあわててそのあとを追うて駈け出した。
だんだん距離がつまって来た。
「おい、待て!」
はじめて小沢は声を掛けた途端、
「ちょっと待っとくなはれ。ちょっと……」
と、うしろから声を掛けられた。
思わず振り向いた。
その拍子に、小沢は手を掴まれた。
亀吉だった。――が、小沢には見覚えがない。
「誰だ……?」
「…………」
亀吉はひょいと黒い首をひっこめて、もじもじしていたが、やがて思い切って、
「――わてだっか。わては……掏摸だんネ」
「えっ……?」
と、小沢は
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