木の都
織田作之助
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)生国魂《いくたま》神社
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)千日前|界隈《かいわい》
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#地から1字上げ](昭和十九年三月)
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大阪は木のない都だといはれてゐるが、しかし私の幼時の記憶は不思議に木と結びついてゐる。
それは生国魂《いくたま》神社の境内の、巳《み》さんが棲《す》んでゐるといはれて怖《こは》くて近寄れなかつた樟《くす》の老木であつたり、北向八幡の境内の蓮池に落《はま》つた時に濡れた着物を干した銀杏《いちやう》の木であつたり、中寺町のお寺の境内の蝉の色を隠した松の老木であつたり、源聖寺坂《げんしやうじざか》や口繩坂《くちなはざか》を緑の色で覆うてゐた木々であつたり――私はけつして木のない都で育つたわけではなかつた。大阪はすくなくとも私にとつては木のない都ではなかつたのである。
試みに、千日前|界隈《かいわい》の見晴らしの利く建物の上から、はるか東の方を、北より順に高津《かうづ》の高台、生玉《いくたま》の高
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