なり涸れた細い声で、随分威勢が上らなかった。それをSのために済まなく思った。けれども彼は、思い掛けぬ私の万歳にこぼれ落ちるような喜びを雨に濡れた顔一杯泛べた。よくも万歳をいってくれたなアという嬉しさがありありと見えた。孤独なSよ、しかし君はいまは聖なる日本の兵隊だ。そう思ってSの顔を見ようとしたが、私の眼はもはやぼうっとかすんでいた。雨が眼にはいったせいばかりではなかった。ぼろりと泪を落して、私は、Sはきっと目覚しい働きをするだろうと、Sの逞しい後姿を見た。そうしてSの姿を見失うまいと、私はもはや傘もささずに、S達の行軍のあとを追うて行った。雨はなおも降っていた。
底本:「定本織田作之助全集 第六巻」文泉堂出版
1976(昭和51)年4月25日発行
1995(平成7)年3月20日第3版発行
初出:「大阪銃後ニュース第十号」
1940(昭和15)年7月25日
入力:桃沢まり
校正:小林繁雄
2009年8月22日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正
前へ
次へ
全5ページ中4ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
織田 作之助 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング