も、想い出すのは、「やっぱり、蝶子はん、あんたのことや」抱主を見返すと誓った昔の夢を実現するには、是非蝶子にも出世してもらわねばならぬと金八は言った。千円でも二千円でも、あんたの要るだけの金は無利子の期間なしで貸すから、何か商売する気はないかと、事情を訊くなり、早速言ってくれた。地獄で仏とはこのことや、蝶子は泪が出て改めて、金八が身につけるものを片《かた》ッ端《ぱし》から褒めた。「何商売がよろしおまっしゃろか」言葉使いも丁寧《ていねい》だった。「そうやなア」丸万を出ると、歌舞伎《かぶき》の横で八卦見に見てもらった。水商売がよろしいと言われた。「あんたが水商売でわては鉱山《やま》商売や、水と山とで、なんぞこんな都々逸《どどいつ》ないやろか」それで話はきっぱり決った。
 帰って柳吉に話すと、「お前もええ友達持ってるなア」とちょっぴり皮肉めいた言い方だったが、肚の中では万更《まんざら》でもないらしかった。
 カフェを経営することに決め、翌日早速周旋屋を覗きまわって、カフェの出物《でもの》を探した。なかなか探せぬと思っていたところ、いくらでも売物があり、盛業中のものもじゃんじゃん売りに出ている
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