。だらんと着物をひろげて、首を突き出し、じじむさい恰好で板の上に坐っている日が何日も続くともう泣く元気もなかった。寒かろうと、北田が毛布を差入れしてくれた。
二日たった昼頃、紋附を着た立派な服装の人が打っ倒れるように留置場へはいって来た。口髭を生やし、黙々として考えに耽っている姿が如何にも威厳のある感じだったから、こんな偉い人でも留置されるのかと些か心が慰まった。ふと、この人は選挙違反だろうと思った。鄭重に挨拶をして毛布を差出し、使って下さいというと、じろりと横目でにらみ、黙って受けとった。あとで調べの為に呼び出された時、係の刑事に訊くと、あれは山菓子盗りだといった。葬式があれば故人の知人を装うて葬儀場や告別式場に行き、良い加減な名刺一枚で、会葬御礼のパンや商品切手を貰う常習犯で、被害は数千円に達しているということだった。なんや阿呆らしいと思ったが、しかし毛布を取り戻す勇気は出なかった。中毒で人一人殺したのだから、最悪の場合は死刑だとふと思いこむと、順平はもう一心不乱に南無阿弥陀仏、と呟いていた。そんな順平を山菓子盗りは哀れにも笑止千万にも思い、河豚料理で人を殺した位で死刑になってた
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