馬の骨の種か分るもんかと突っ放したところ、こともあろうに小鈴はリリアンへ通っていた表具屋の息子と駈落ちしたので、さてはやっぱり男がいたのかと胸は煮えくり返り、行先は別府らしいと耳にはさんだその足で来てみると、いた。温泉宿でしんみりやっているところを押えて、因縁つけて別れさせたことは別れさせたが、小鈴はその時――どない云いやがったと思う? と、北田はいきなり順平にきいたが、答えるすべもなくぽかんとしていると、北田はすぐ話を続けて――わては子供が可哀相やから駈落ちしたんや。どこの馬の骨か分らんようなでん[#「でん」に傍点]公の種を宿して、認知もしてもらえんで、子供に肩身の狭い想いをさせるより、表具屋の息子が一寸間アが抜けてるのを倖い、しつこく持ちかけて逐電し、表具屋の子やと否応はいわせず、晴れて夫婦になれば、お腹の子もなんぼう幸せや分らへん。そんな肚で逐電したのを因縁つけて、オイチョの北さん、あんたどない色つけてくれる気や。そんな不貞くされに負ける自分ではなかったが、父性愛というんやろか、それとも今更惚れ直したんやろか、気が折れて、仕込んで来た売屋の元も切れ、宿賃も嵩んで来たままに小鈴はそ
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