たが、やがて足は田蓑橋の阪大病院へ向った。当てもなく生国魂まで行ったために空腹は一層はげしく、一里の道は遠かった。途々、なぜ丸亀へ無心に行かなかったのかと思案したが、理由は納得出来なかった。病院へ訪ねて行くと、浜子はこんどは眼に泪さえ泛べて、声も震えた。薄給から金をしぼりとられて行くことへの悲しさと怒りからであったが、しかし、そうと許り云い切れないほど、順平は見窄らしい恰好をしていた。云うも甲斐ない意見だったが、やはり、私に頼らんとやって行く甲斐性を出してくれへんのかとくどくど意見し、七円めぐんでくれた。懐からバットの箱を出し、その中に金をいれて、しまいこみながら、涙を出し、また、にこにこと笑った。浜子と別れると、あまい気持があとに残り、もっともっと意見してほしい気持だった。玉江橋の近くの飯屋へはいって、牛丼を注文した。さすが大阪の牛丼は真物の牛肉を使っていると思った。木下の屋台店で売っていた牛丼は、繊維が多く、色もどす赤い馬肉だった。食べながら、別府へ行けば千に一つ小鈴かオイチョカブの北田に会えるかも知れぬと思った。
天保山の大阪商船待合所で別府までの切符を買うと、八十銭残ったので
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