された。
「よし、いつかはあの女をおれの足許に膝まずかしてやる!」
自尊心のためには、どんなことをもやりかねない章三だった。陽子を屈服させるためには、どんな犠牲を払ってもいいのだ。しかし、たった一つ、払ってはならない犠牲がある。いうならば、自尊心だけは犠牲にしてはならないのだ。
だから、昨夜田村の玄関で陽子を見ても、章三は追うて行こうとしなかった。自尊心が許さなかったのだ。
「しかし、あの女が京都にいると判れば、こっちのもンや」
ぼやぼや寝てられんぞ、と章三は寝床の中で、今日これから成すべきことを考えながら、隣室の話声をきくともなしに聴いていた。
二
「いい部屋じゃないの、この洋室。このままバーに使えるわね」
「使ってたのよ。ただのお料理屋や旅館じゃ面白くないでしょう。だから、バーっていうほどじゃないけど、まあ洋酒も飲めるし、女の子もサーヴィス出来るように、この部屋だけ特別に洋室にしたのよ。今はオフリミットになっちゃったけど、開店当時は随分外人も来たわよ。いい子もわりと揃えてたのよ」
「京都には女の子つきで一晩いくらっていう宿屋があるときいてたけど、ははアん……」
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