ぎ提灯の、ピンク、ブルウ、レモンエローの灯りが、ホールの中を染めていた。
が、茉莉の顔はその色に染まりながら、いや、そのために一層、みるみる蝋色の不気味さに変って行くのが、判るようだった。
苦しそうだ……。
四
口からふき出している泡の間から、だらんと垂れた舌の先が見え、――茉莉はかすかに唸っていた。
バンドは間抜けた調子で、誰も踊っていないホールへ相変らずクンパルシータの曲を送っていたので、茉莉のうめき声は、ともすればその音に消されたが、苦しそうにうめいていることだけは、さすがに風のように陽子の耳には判った。
「あ、いけない!」
茉莉のうめき声は、いのちの最後の苦しみを絞り出しているのかもしれない――といういやな予感に、陽子はどきんとして、
「――お医者を……」
呼びに早くボーイを……と、あわてて振り向いた途端、木崎の姿が眼にはいった。
木崎は相変らず階段の真中に突っ立っていた。
十番館ははじめ進駐軍専用のキャバレエとしてつくられたので、シャンデリア代りに祇園趣味の繋ぎ提灯をつり、階段は御殿風に朱塗りだった。
ことに正面の階段は、幅がだだっ広く、ぐっ
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