、美貌を前提としている。幸い貴子は美貌であった。しかし、美貌だけが成功するのではない。美貌が成功するには、彼女のいわゆるエキゾチシズムが必要なのだ。男は色気たっぷりの芸者をある程度の金で縛りつけることが出来るのだ。それを自分の方に惹きつけて無制限に金をひき出させるには、もうエキゾチシズムよりないと、貴子は水商売の女の考える限界の中では、まずギリギリの知慧を働かせていた。
 そして、彼女は成功して来た。もっとも、彼女のいう成功とは、二号として、即ち日かげ者としての成功であることは、いうまでもない。
 しかし、彼女はその服装では、一つだけ失敗していた。彼女の服装が時に滑稽に見えるということに、気がつかなかったのだ。これは重大な手落ちだ。すくなくとも、春隆はそんな貴子の恰好を見て、噴き出したくなっていた。
 しかし、春隆という男に、もし取得というものがあれば、いんぎんなエティケットがわずかにそれであろう。
 春隆は噴き出す代りに、彼女の時計をほめてやることにした。ダイヤの指輪をほめるには、春隆は余りに侯爵だったし、だいいち、せっかくのショートパンツとワイシャツにダイヤはぶちこわしで、ふとパト
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