ステップを踏みはずして、転んだのか――と皮肉りかけた口の悪い客も、
「あ、茉莉が……」
 倒れたのかと気がつくと、あわてて相手のダンサーをはなして、
「――茉莉誰と踊ってたんだい。柔道屋か」
 茉莉はまかりまちがっても転ぶような、そんな下手なダンサーではなかったのだ。
「踊りでは茉莉、顔では陽子」
 と、十番館では定評になっていた。
「えッ、茉莉が……?」
 と、陽子も顔色を――いや、陽子の顔色は既に木崎がシャッターを切った時なぜかはっと変っていた。
「あ、うつされる!」
 と、ぎょっとしたように、いきなりそむけた顔が、みるみる青ざめた。
「失礼します」
 陽子は客からはなれて、木崎の方へ行こうとした――その途端、茉莉が倒れたのだ。
 写真も気になったが、それよりも茉莉のことが……。ちょっと迷ったが、やはり陽子は人ごみの間をすり抜けて、茉莉の方へかけよった。
 茉莉の顔は、青ざめた陽子よりも、血の色がなかった。頬紅の色まで青く変っていた。
 そして、口から泡をふき出して、床の上を蛭のようにかすかにうごめいている――その傍に、青年がキョトンと突っ立っていた。

      三

「あ、京
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