酒を飲み出した頃、京吉は再び陽子のアパートの階段を登りながら、
「芳ッちゃん、ばかだなア!」
おれの停めるのもきかずに、一人でさっさと行っちゃうなんて、今夜泊る所あるのかい……と、呟いていた。
もっとも、本気で連れ戻したい肚もなかったのだ。一応ひき停めたことは停めたし、あとも追い、探してみたのだが、すぐ見失ってしまうと、もうそれが一人で陽子のアパートへ戻って来る自分への口実になってしまったのだ。
持前の放浪性が、時と場合で走馬燈のようにぐるぐると京吉の気持を変らせるのは、いつものこととはいいながら、しかし、人恋しさと親切な気持からさっきまではあれ程なつかしく、いたわりもしていた芳子を、急に見捨てる気持になったのも、実に陽子の声をドア越しに聴いたという現金な気持からであろう。しかし、このエゴイズムに気づかぬほど、京吉には孤児の感情が身につきすぎていた。
はじめは芳子をだしにして陽子の部屋に泊めて貰おうと思ったくらい、細かい神経を使いながら、急に馴れ馴れしい図太い神経になって、いけしゃアしゃアと一人で戻って来たというのも、やはり同じ孤児の感情からで、いったん泊めてくれるものと信じ込
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