、グッドモーニングの銀ちゃんの肩へより掛らせながら、ひょこひょこ歩いていた。
「阿呆ぬかせ。今夜は夜通し飲むんだ」
 銀ちゃんも情ない足取りだったが、
「――夜が明けて、グッドモーニングと挨拶かわし、盞かわしてグッドバイ……ってとこまで飲むんだ」
 都々逸の調子を張り上げながら、執拗に坂野をはなさなかった。
 祇園荘で二(リャン)チャン打つと、坂野が三千点ほど負けで、千点二百円だったから、六百円坂野が払おうとすると、銀ちゃんは受取らず、じゃその金で飲もうということになって、あちこち飲みまわって夜が更けたのだが、なお、なけなしの金をたたいてずるずると梯子酒を続けようというのは、飲み足らぬというよりは、むしろアパートへ帰るのがいやだったからだ。アパートへ帰れば、芳子がいるかも知れない。昼間セントルイスでは約束をすっぽかしたが、もう亭主の所を飛び出して来た芳子には自分の所しか行く所がない。すっぽかされてみれば一層アパートへ行って、根気よく自分の帰りを待っているだろう。
 そう思えば、やはり自分が手をつけた女だけにふびんだったが、これからの芳子の身の振り方、おなかの子の始末、女の愚痴、涙、すす
前へ 次へ
全221ページ中207ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
織田 作之助 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング