うに光った。
木崎は自分の心の底を覗くように、レンズを覗いた。レンズの向うには、陽子のさまざまな姿態があった。が、三日目の今日まで、ついぞ一度もシャッターを切らなかった。
気に入った構図が見つかるまで、めったにフイルムを使おうとしない、名人気質的な、ふと狂気じみた凝り方は、いつものこととはいうものの、しかし、いつもの彼ならいそいそと撮ったようなポーズにも強く反撥していたのは、一体何であろう。
木崎の顔は憂愁の翳が重く澱んで、いらいらと暗かった。が、何を思ったのか、急に起ち上ると、木崎は階段の中程に突っ立った。
そして、陽子へ向けたライカのシャッターを切った途端、一人のダンサーが声も立てずに、いきなり床の上へ崩れるように、倒れた。
二
まるで、わざとのような偶然であった。
木崎のライカがカチッとシャッターの音を立てたのと、そのダンサーの体が崩れるように床の上へ倒れたのと、殆んど同時――というより、むしろ、シャッターの音が防音装置のピストルのかすかな音のように、彼女を倒した――と言ってもいいくらいだった。
木崎も驚いたが、客もダンサーも、そして楽師もあっと思っ
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