はまずい。北山は京吉から掏った財布を投げ捨てた。
再び銃声が聴えた。守衛がまた威嚇的に発砲したのであろう。気の抜けた遠い音だったが、ひとり一団からぽつりとはなれて駈けていた五十四、五の男が、いきなり身を伏せた。
銀造であった。田村のマダムの貴子のかつてのパトロン、チマ子が木崎に「お父っちゃんは監獄……」と語ったその父親の銀造だ。
銀造がひとりおくれて駈けていたのは、実は逃げる意志を持っていなかったからだ。
横になることも出来ぬくらい収容定員の何倍もぎっしり詰った部屋の狭さの不平や、贈賄をしなければ差入れを許さぬ守衛への反感や、食事の苦情……が積み重っていたところへ、その日は夕食がいつまで待っても与えられず、ガヤガヤ騒ぎ立てていた矢先、たまたま起った囚人同士の口論が、それを鎮圧しようとした守衛に向って飛び火して囚人と守衛の間に険悪な空気が高まって行くうちに、極度にふくれ上った昂奮はついに拘置所の檻を破り、なだれを打って飛び出したのだが、銀造はその仲間にひき込まれながら――逃げ出してもどうせつかまって、罪が重くなるばかりだと、何か諦めていた。
だから、逃げ足は渋りがちだったが、銃
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