どこへ行ったらいいの。行く所ないわ」
「活動でも何でも見て来たらいいだろう。三時にセントルイスで会おう。相談はそれからのことだ」
とにかく、ここにいてはまずいと、無理やり女を追い出した。しかし、三時に会うても何の話があろう。いい思案もうかばぬことは判り切っていたから、会うのが辛かった。
イーチャンが終ると、柱時計を見上げて、五時を指している針を見た時、だから銀ちゃんは軽い後悔と共に、何か諦めた安心感を感じたが、実は時計は故障で停っていたのだ。まだ三時半だった。間に合う。いかねばならない。しかし、もうイーチャン打って、ずるずる時間を延ばすことが、この際のごまかしだった。
無理に京吉をひきとめていると、風のようにふわりと一人の男がはいって来た。あッ。
坂野だった。
八
北(ペー)の風から良い手のつき出した男らしく、京吉はもうイーチャン打つことには十分食指が動いていた。が、セントルイスで待っているカラ子のこともあった。
だから、銀ちゃんにすすめられて、ふと迷っていた。その矢先の坂野の登場であった。
「あ、坂野さん、いいところへ来た」
と、京吉はもっけの幸いの声を
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