兄ちゃん」
鮮かな東京弁だった。ははあんと、京吉は上唇の裏に舌を当てて、
「じゃ、そいつ、セントルイスにいるのか」
「うん……? ――うん!」
ちょっとセントルイスの中を見渡してから、うなずいたにちがいない――その仕草が想像されて、京吉はこの瞬間ほど娘がいとしくなったことはなかった。
「――だから、兄ちゃん、早く来てよ」
「よっしゃ」
「ハバア、ハバアよ」
「オー・ケーッてばさ。あはは……」
と、笑った機嫌で、
「――お前何て名だっけ……?」
「あたい……?」
びっくりしたようにきき返したのは、子供心に名前をきかれたという意外な喜びにどきんとするくらいだったのか、
「――兄ちゃん、あたい、カラ子!」
と、しっとり、答えた声は、もう女の声だった。そんな息使いだった。京吉がもとの席に戻って来ると、グッドモーニングの銀ちゃんはなぜか重く沈んでいた。
「お待たせ!」
その回も京吉が上って、そのイーチャンが終った。
「しかし、二千すったよ。金はセントルイスで払う。銀ちゃん、一緒に来てくれよ」
と起ち上ろうとすると、銀ちゃんは、あわてて、
「おいもうイーチャンやろう」
と、ひきとめ
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